闇オクナイサマ’s黙示録

日常に潜む神秘を暴いていきたいです!!!

【モンハン】【異世界転生】ギルドクエストの法的性質(懸賞広告vs雇用・準委任・請負)

 ※二人ともメガネっ娘なのは偶然ではなく、私の個人的な嗜好です。

 モンハン世界では、数々のクエストを達成するハンターが群雄割拠しています(ちなみに、私の使用武器はガンスかスラアクでした。)し、異世界ナーロッパでも、冒険者の主人公が所属パーティから不遇な評価を受けて追放された状況から、別パーティで成り上がっていく再評価路線が多いですね。

 さて、こうした物語では、ギルドとクエストの存在が不可欠です。そこで、今回はクエストの法的性質について考えてみましょう。

 

 モンハン世界や異世界ナーロッパに共通するクエストの内容としては、薬草採取や飼い猫の探索、ゴブリンやリオレウスといったモンスターの討伐などがあり、手続としては、エストを受注した後、クエストを達成すれば報酬が貰えるという形態がほとんどだと思います。

 クエストの法的性質として考えられるのが懸賞広告(民法529条)、雇用(622条)、委任(643条)、請負(622条)、です。ひとつひとつ検討していきましょう。

1.懸賞広告

(懸賞広告)
第五二九条 ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。

 懸賞広告については、警視庁の捜査特別報奨金制度が有名です。指名手配中(wanted)の犯人を見つけて捕まえたりしたらお金がもらえる制度です。

 モンスターを討伐しても、クエストを受注していないとして、報酬を受け取ることができないとすると、懸賞広告の冒頭規定たる民法529条の「その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず」という文言にそぐわず、クエストの法的性質を懸賞広告とは評価しがたいと考えられます。
 たとえば、モンハンでは、リオレイアの討伐クエストを受注中に、乱入してきたリオレウスを討伐したとしても、リオレウス分の報酬は殆どもらえません。これは、モンハンのクエストが懸賞広告ではないことを示唆しています。

 逆に、不特定多数人に対するモンスター討伐依頼飼い猫の捜索願であれば、民法上の懸賞広告に該当しそうです。また、緊急性の高い討伐クエスト(緊急クエスト)であれば、誰でもよいので迅速に討伐する必要があるから、懸賞広告とすべきでしょう。
 たとえば、異世界ナーロッパにおいて、無自覚チート主人公が偶然にも当該モンスターを倒して、「またオレ何かやっちゃいました?」(=懸賞広告の存在につき善意)となっても、依頼者から報酬をもらうことができるわけです。典型例としては、このすばのキャベツ討伐クエスでしょうか。

2.雇用

 (雇用)
第六二三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

 雇用=労働とは、①会社の指揮命令を受けて仕事し(使用従属性)、②労働時間に応じて賃金が支払われる(経済的従属性)形態です。労働法では「労働者」性がそのまま労働法(労働契約法、労働基準法労働組合法など)の適用範囲を画しますね。
 本件では、ギルドの指揮命令を受けつつモンスターを狩猟しているわけでもなければ(①)、モンスターの狩猟時間に応じて報酬が貰えるわけでもない(②)ので、クエストの法的性質を雇用と評価するのは難しいと思われます。常識的に考えて、ハンターや冒険者を労働者と考えるのも変ですし。
 実際にモンハンでも、制限時間内にモンスターを討伐できなかった場合、報酬はもらえません。

3.準委任vs請負

 (委任)
第六四三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

(請負)
第六三二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

※モンスター討伐は法律行為でないから、準委任(656条)を考える。 

 準委任と請負の区別はおおむね以下の観点から判断するのが普通です。
①結果債務か手段債務か
②自己執行義務(善管注意義務の一環644条)を負うかby当事者間の信頼関係に基づくか
有償契約か無償契約か

 

 ①について、結果債務はある結果の実現(成果物の引渡しが典型)を内容とする債務であり、手段債務はある事務の処理を内容とする債務(結果の実現は重視されない)をいうと考えてよいです。結果債務であれば請負になりやすく、手段債務であれば準委任になりやすいです。
 採取系クエスについては、薬草やハチミツの納品が達成条件となっていますから、特定の物品の納入という結果の実現が債務の内容になっており、結果債務に当たると考えられます(請負になりやすい)。
 討伐系クエスについては、モンスターの死骸の納入という結果の実現までは要求されておらず、モンスターを討伐すればクエスト達成になると解すると、モンスター討伐という事務の処理が債務の内容となっており、手段債務に当たると考えられます(準委任になりやすい)。モンスター討伐を結果の実現とも評価しえますが、何か成果物の納品を求めているわけではないので、請負よりは準委任に傾くと思います。

 

 ②について、自己執行義務とは、債務者が負う、自分で債務を履行しなければならず、第三者に委託してはならないという義務をいいます。この義務を負うべきと解すると準委任になりやすく、負わないと解すると請負になりやすい(ex.多重請負)です。
 採取系クエスについては、薬草などを誰が採取しても、依頼者としては薬草が入手できれば満足するのですから、冒険者・ギルド間の信頼関係は大して重要ではなく、冒険者自己執行義務を負わないと考えられます(請負になりやすい)。採取系は最低ランクの代表的なクエストであり、実質誰でも受注できますからね。クエストの交換も許されると考えられます。
 討伐系クエスについては、異世界ナーロッパにおいて、E~Sランク、銅(カッパー)~アダマンタイトのようにランク分けし、ランク別のクエストが用意されていることから、誰でもモンスターを倒せばよいのではなく、ギルドは実力に対する一定の信頼に基づいて冒険者に依頼していると考えられます。そうすると、冒険者・ギルド間の信頼関係は重要ですから、冒険者は自己執行義務を負うと考えられます(準委任になりやすい)。ゆえに、クエストの交換は許されません(無職転生1期11話参照)。

 

 ③については、確認がでらに、無償契約であれば準委任に該当します(643条の文言参照)。もっとも、有償契約だからといって、直ちに請負になるわけではなく、委任になることもあります。
 クエスト達成には報酬が支払われますから、無償契約ではありません

4.結論

 以上のように、採取系クエスについては、結果債務であり、かつ自己執行義務を負わないと解されるため、請負に当たると評価できます。その一方、討伐系クエスについては、手段債務であり、かつ自己執行義務を負うと解されるため、準委任に当たると評価できます。
 また、 不特定多数人に対するモンスター討伐依頼飼い猫の捜索願であれば、民法上の懸賞広告に該当しそうです。緊急クエスについても、緊急性の高さゆえに、懸賞広告とすべきでしょう。もっとも、緊急性が高くないとともに、パーティ間でモンスターの討伐争いが多発すると予想されるクエスについては、他パーティによる不当な横取りを防ぐため、懸賞広告ではなく、準委任にすべきでしょう。

おまけ 討伐系クエストの二重発注(ダブルブッキング)について

 ギルド受付嬢の手違いで、1個の討伐系クエストを2組以上のパーティが受注してしまった場合、ギルドの損害賠償責任はどうなるんでしょう。そうならないように、排他制御すべきでしょうね()

 

 

『異世界転生』『なろう』主人公をはねてしまった異世界送迎トラック運転手の法的責任!!!(履行に着手中or実行に着手中)

え~、事例をまとめてみましたが、法的責任については立て込んでいるので、おいおい加筆していく予定です。

無職転生事例>

34歳無職かつ引きこもりの主人公は、親の死去に伴い兄弟たちに見限られて家を追い出された。その際に肋骨が折れていた。その後あてもなく彷徨っていたところ、横断歩道の中央分離帯にある安全島で赤信号のため待機していた高校生3人に向かってトラックが高速度で迫ってきているのに、本人たちはそれに気づいていなかったため、主人公は助けようとして道路に飛び出したところトラックと衝突した。この衝突により高校生1人は助かった一方、主人公と残りの高校生男女2人は直ちに病院に緊急搬送されたがまもなく死亡した。

 

<このずば事例>

20歳ヒキニートの佐藤和真(以下「クズマ」と略す)は、買い物に出掛けたある日、女子高生がトラックに轢かれそうになっていると誤認して突き飛ばし、助けたつもりになって自分が轢かれたと勘違いして心臓麻痺により死亡した。現実には女子高生の前に迫っていたのは農耕用トラクターであり、轢かれるおそれはなかった。突き飛ばされた女子高生は軽傷を負った。

<精霊幻想記事例>

20歳の大学2年生である天川春人(以下「ハルト」と略す)は、帰宅のため乗合バスに乗車中、運転手の居眠り運転により、踏切警報機が鳴り遮断棒も下りているのに一時停止せず踏切道内に突っ込んで電車と衝突して死亡した。

<陰の実力者事例>

 高校生の影野ミノル(以下「カゲノ」と略す)は、夜遅い森の中で、服を脱ぎ捨て「魔力ッ!魔力魔力!」と叫びながら木に頭を打ち付けていた。すると、横切っていく二つの光が見えたので、トラックのヘッドライトを魔力の光と誤認して「魔力!魔力!魔力!魔力魔力魔力魔力魔力!!!!!」と叫びつつ光の方へ走ったら車道に出てしまいトラックと衝突して死亡した。

 

 

無職転生事例>

主人公:緊急事務管理(民法698条)

トラック運転手:過失運転致死罪(自動車運転処罰法5条)、

        不法行為責任、運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)

トラック運転手の雇用主:運行供用者責任、使用者責任(民法715条1項)

 肋骨骨折→身体的素因減額(722条2項類推適用)

<このすば>

主人公:女子高生に対する傷害罪(刑法204条)、しかし誤想防衛により責任故意が阻却?

ラクター運転手:過失運転致死罪、しかしショック死だから因果関係が遮断されて不成立?

<精霊幻想記>

乗合バス運転手:過失運転致死罪

電車運転手:無過失?

鉄道会社:踏切について工作物責任(無理?)

<陰の実力者事例>

トラック運転手:過失運転致死罪、しかし軽過失にとどまる?

 不法行為責任:過失相殺、頭を打ち付けた(脳震盪)→身体的素因減額

会計と法律の境界面(インターフェイス)を見てみよう!第2面 資本的支出・収益的支出vs有益費・必要費(民法196条608条等)

 今回は、会計上の概念たる資本的支出・収益的支出と、民法上の概念たる有益費・必要費についての考察をわかりやすく備忘録としてまとめました。内容の真実性については断定できませんが、それなりに正しいと思っています。温かい目で読んでね♡(後で図式化)

 会計上、修繕費とは固定資産の取得原価に価値を維持・回復させる支出(収益的支出)をいい、改良費とは、固定資産の価値を取得原価よりも高める又は耐用年数を延長させる支出(資本的支出)をいう。

 修繕費は費用に計上する一方、改良費は資産(取得原価)に計上する。

※本来であれば資本的支出として資産に計上すべきなのに費用に計上することで、利益を圧縮するという脱税スキームがある。

 

その一方、

 

 民法上、196条1項の必要費とは目的物の客観的価値を維持・回復させる費用をいう一方、196条2項の有益費とは目的物の客観的価値を高める支出をいい、その価値の増加が残っている場合に限りその残部のみ償還請求できると解する。

 608条の必要費・有益費については、196条の文言を照らしつつ、賃貸借契約の内容を反映させる必要性にも鑑みて定義づけるべきである。そこで、608条1項の必要費とは目的物を契約通りの使用収益に適する状態に維持・回復するのに支出した費用をいい、608条2項の有益費とは目的物の客観的価値又は耐久力を高める支出をいう。

 649条650条1項の「費用」は必要費でも有益費でもよい?(要検討)

 702条1項の有益費には必要費も含まれる。

 以上のように、会計上の支出概念を参照(=借用)して、民法上の必要費・有益費を再定義してみました。

 要するに、

 物の価値が高まる場合、会計上では資産計上し、民法上では有益費として、たとえば建物の借主は貸主に対して、賃貸借契約の終了まで有益費償還請求できない(民法608条2項本文)一方、物の価値を維持・回復するにとどまり、価値が高まるわけではない場合には、会計上では費用計上し、民法上では必要費として、建物の借主は貸主に対して、直ちに必要費償還請求できる(民法608条1項)。

とうことです。

 なお、

 会計上、重要性原則や保守主義原則により一定額以下の支出はすべて収益的支出として費用に計上される一方、民法上では、支出額の多寡を問わずに、必要費か有益費かを判断する。

ということにも留意しておくのもよいかもしれません。

 ところで、会計上、建物は(原則として取得原価から減算せずに、「減価償却費」という勘定科目により費用計上していく形で)減価償却していきますが、それに対応する形で民法上での物の客観的価値が下がっていくのでしょうか?私は、会計上の減価償却ペースに対応させるのではなく、再調達原価又は割引現在価値民法上での客観的価値とすればよいと思われます。つまり、会計上の減価償却ではなく、不動産鑑定評価基準での原価法又は収益還元法に従うべきですね。なぜなら、会計上の減価償却には擬制的な側面があり、必ずしも固定資産の客観的価値を正確に示しているわけではないからです。

 ちなみに、建物の資本的支出・有益費が23万円(免税点)以上であれば、改築であるとして、不動産取得税が課されます(地方税法73条の2第3項)よね。

 

 

(例題)

残存耐用年数が5年のマンションについて、当期首に大規模な改修を行い、現金6,000,000円を支払った。その結果、当該マンションの使用可能年数が当期首から15年になったため、延長期間に対応する金額を資本的支出と判定し、残りを収益的支出とした。

 建物4,000,000  現金6,000,000

 修繕費2,000,000

 民法上は400万円が有益費であり、200万円が必要費となる。

*使用可能年数が5年から15年へと10年延長したので、支出額の15分の10を有益費として資産計上する。

 

会計と法律の境界面(インターフェイス)を見てみよう!第1面 契約資産vs同時履行義務(民法533条)vsダークライ 

 

 簿記・会計の参考書を読んでも法律のことはほとんど載っていないし、民法会社法の参考書を読んでも会計のことはほとんど載っていない。「会計と法律を紐づけて勉強したい!!!」そんなお悩みを持った経験はありますよね?

 そこで、本記事を読んで会計と法律の架け橋が少しでも築ければと思います。

 今回は契約資産(会計)と同時履行義務(民法)をテーマにします。文章のクセが極彩色なので、それでも構わない方は本記事の扉をお開けくださいませ。

<例題>

商品Xの独立販売価格:12,000円

商品Yの独立販売価格:8,000円

を前提とします。

(1)売掛金

 A社は商品XをB社に販売して、代金12,000円を掛けとした。そのあとB社から代金全額がA社の当座預金口座に入金された。

 A社の仕訳:売掛金12,000円  売上12,000円

        当座預金12,000円 売掛金12,000円

 B社の仕訳:仕入 12,000円  買掛金12,000円

        買掛金12,000円  当座預金12,000円

になりますね(三分法*1)。

 民法の視点によると、契約の内容としてA社の商品X引渡債務が先履行義務、B社の12,000円売買代金債務が後履行になることが決められているようです。このときA社はもちろん、B社にも同時履行義務がないということになります。別の解釈として、契約の内容に上記のような履行の前後関係が決められていない場合には、A社が商品X引渡債務を履行したことにより同時履行義務が消滅したので、B社に対して12,000円売買代金債務の履行を請求したと考えることができます。

 

(2)前受金(契約負債)

 A社は来月販売予定の商品Xの代金をB社から当座預金口座に入金された。来月、A社は商品XをB社に引き渡した。

 A社の仕訳:当座預金12,000円  前受金(契約負債)12,000円

        前受金(契約負債)12,000円   売上12,000円

 B社の仕訳:前払金12,000円   当座預金12,000円

        仕入12,000円    前払金12,000円

になりますね。

 民法の視点によると(1)とは反対に、契約の内容としてB社の12,000円売買代金債務が先履行義務、A社の商品X引渡債務が後履行になることが決められているようですこのときB社はもちろん、A社にも同時履行義務がないということになります。別の解釈として、契約の内容に上記のような履行の前後関係が決められていない場合には、B社が12,000円売買代金債務を履行したことにより同時履行義務が消滅したので、A社に対して商品X引渡債務の履行を請求したとも考えられます。

 

(3)契約資産

商品Xの独立販売価格:12,000円

商品Yの独立販売価格:8,000円

 X1年4月1日(期首)、A社はB社と商品Xおよび商品Yを合わせて20,000円で販売する契約を締結した。商品Xの引渡しはx1年4月30日に行い、商品Yの引渡しはx1年5月31日に行う。対価20,000円の支払いは商品X、Y両方の引渡しが条件となっている。

 予定通り商品の引渡しが完了した後、X1年6月1日に対価20,000円がA社の当座預金口座に入金された。

 

①x1年4月30日(商品Xの引渡し時)

A社の仕訳:契約資産12,000円  売上12,000円

B社の仕訳:仕入12,000円    買掛金12,000円

 

②x1年5月31日(商品Yの引渡し時)

A社の仕訳:売掛金20,000円   売上8,000円

                   契約資産12,000円

B社の仕訳:仕入8,000円     買掛金8,000円

 

③X1年6月1日(対価20,000円の入金時)

A社の仕訳:当座預金20,000円  売掛金20,000円

B社の仕訳:買掛金20,000円   当座預金20,000円

 

になるんですよね?

 民法の視点によると、(1)と同様、契約の内容としてA社の商品XY引渡債務が先履行義務、B社の12,000円売買代金債務が後履行になることが決められているようです。このときA社はもちろん、B社にも同時履行義務がないということになります。別の解釈は特にないと思われ。

 

<解説>

1.どの勘定科目を左右どっちに記入するのか

 これは以下の等式変形を見ればわかります。

 ①資産=負債+純資産+利益

 ②利益=収益-費用

 等式①は蓄積された財産(負債+純資産)(B/S)当期の利益(P/L)を加えたことを意味します。

 等式①に等式②を代入すると、

 ①’資産=負債+純資産+収益-費用 になります。

 右辺の「費用」を左辺に移項させると、

 ①”資産+費用=負債+純資産+収益(絶対暗記!!!) になります。

 この等式①”の左右関係がそのまま記入場所になります。

 すなわち、資産・費用の増加左側(借方)に記入し、負債・純資産・収益の増加右側(貸方)に記入することになります。

 反対に、資産・費用の減少右側(貸方)に記入し、負債・純資産・収益の減少左側(借方)に記入します。

2.どの勘定科目が費用・資産・負債・純資産・収益のどれに区分されるのか

 これは仕訳問題を解いていくうちに、勘定科目の字面意味を吟味して慣れるほかありません。

 例題において、「売上」という勘定科目は意味通り収益なので、増加すれば貸方に記入し、減少すれば借方に記入します。

 「売掛金」とは会計上は「売上債権」の一種ですが、民法は「売買代金債権」であります。債権は意味通り資産なので、増加すれば借方に記入し、減少すれば貸方に記入します。

 「買掛金」とは会計上は「仕入債務」の一種ですが、民法は「売買代金債務」であります。債務は意味通り負債なので、増加すれば貸方に記入し、減少すれば借方に記入します。

 「前受金(契約負債)」は契約が取消し・無効・解除されると返還債務を負うという意味を含むことから負債なので、増加すれば貸方に記入し、減少すれば借方に記入します。「前払金」は契約が取消し・無効・解除されると返還請求権を有するという意味を含むことから資産なので、増加すれば借方に記入し、減少すれば貸方に記入します。

 「契約資産」は字面通り資産なので、増加すれば借方に記入し、減少すれば借方に記入します。

3.謎科目:契約資産 民法上の位置づけは???

 それでは本題。「契約資産」という謎めいた勘定科目について考えてみましょう。会計基準によると、契約資産を「企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、顧客との契約から生じた債権を除く。)」と定義づけています(収益認識基準10項)。また「顧客との契約から生じた債権」(=売掛金)を「企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち対価に対する法的な請求権)」と定義づけています(同基準12項)。

 つまり、「企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち条件付きのものが契約資産なのでしょう。条件付きの段階では契約資産ですが、その条件がなくなれば売掛金になるようです。

 そうですか、という次第ですが、仕訳する分には売掛金」の前段階として「契約資産」なる勘定科目に計上するんだなという理解で足りるのではないでしょうか。

 

 さて、上述のとおり売掛金民法売買代金債権であるならば、売掛金の前段階である契約資産は民法上どのように位置づければよいのでしょうか。収益認識基準がいう「条件」の意味民法の視点から検討しましょう!

 例題(3)においては、X1年4月1日にA社とB社の間で商品X、Yを目的物とする売買契約(555条)が成立している点は問題ありませんね。この契約の効果として、A社はB社に対して20,000円の代金債権を有するとともに、B社もA社に対して商品XYセットの引渡請求権を有することになります。債務関係に直すと、A社はB社に対して商品XYの引渡債務を負うとともに、B社もA社に対して合計20,000円の代金債務を負っています。

a.先履行義務を負う場合

 ところで、民法上両債権にはそれぞれ同時履行義務(533条)が付着しているのが原則です。しかし実際には、例題(3)で「対価20,000円の支払いは商品X、Y両方の支払いが条件となっている」ことから、契約の内容としてA社の商品XY引渡債務が先履行義務であり、B社の20,000円代金債務が後履行となっていると解釈するのが素直です。ただし、A社は商品XのみをB社に引き渡しただけでは先履行義務が消滅しません。これに対して例題(1)では商品XをB社に引き渡せば先履行義務が消滅します

 そうすると、先履行義務が残っていれば契約資産である一方、先履行義務が消滅していれば売掛金になると考えられます。

 よって、先履行義務を負っている場合において収益認識基準がいう条件とは先履行義務のことを指すのではないでしょうか?

 つまり、同基準の「契約資産」とは、民法の視点から引き直すと「先履行義務が付着している代金債権」ということになり、「顧客との契約から生じた債権」(売掛金)は「先履行義務が消滅した代金債権」ということになります。

 そのため、例題(1)であっても、たとえば商品Xが多くの部品で構成されており、ディアゴスティーニ方式で毎週A社が部品をB社に届ける(全部届け終わって初めてB社が対価12,000円を支払う)場合には、部品を届けるたびにA社は部品の独立販売価格の分だけ契約資産を計上しなければならないことになるでしょう。

b.同時履行義務がある場合

 これまでは先履行義務がある場合を検討しました。ここからは先履行義務がない場合、すなわちA社とB社の両債権に同時履行義務が付着している場合を検討しましょう!この場合は、例題(3)の条件文を「対価20,000円の支払いは商品X、Y両方*2の引渡しが条件となっている一方、商品XYの引渡しも対価20,000円の支払いが条件となっている」と書き換えた上で、「A社は任意で先に商品XだけをB社に引き渡したが、商品Yを引き渡す際にはB社から対価20,000円の支払いを拒絶された事態」が生じたときに問題となります。

 ここでいう同時履行義務を例題(3)に即した形で具体化すると、「A社は商品XY引渡債務を履行しない限りB社から20,000円代金債務の履行を拒絶されてしまうので、早くても商品XY引渡債務の履行と同時に20,000円代金債務の履行を請求しなければならないとともに、B社も20,000円代金債務を履行しない限りA社から商品XY引渡し債務の履行を拒絶されてしまうので、早くても20,000円代金債務の履行と同時に商品XY引渡し債務の履行を請求しなければならない」ということになります。

 視点を変えると、同時履行義務には「A社がB社から商品XYの引渡しを請求された時にはB社の20,000円代金債務の未履行を理由に拒絶できるとともに、B社もA社から20,000円の支払いを請求された時にはA社の商品XY引渡債務の未履行を理由に拒絶できる」という機能があります。こうした機能に着目して同時履行の抗弁権とも呼ばれ、「拒絶する=同時履行の抗弁権を行使する」ということになります。

 そして、同時履行義務が消滅するのは自分の債務を完全に履行した(反対給付の履行)時です。未履行債務不履行履行遅滞履行不能不完全履行であれば消滅しません。それゆえ、例題(3)では、A社が商品XだけをB社に引き渡し時点では不完全履行(=商品Yの引渡し債務が未履行)であるためA社の同時履行義務が未だ消滅しておらず、商品YもB社に引き渡した時点で初めて消滅するのです。

 こうした関係を会計上の勘定科目と対応させると、契約資産の状態では同時履行義務が消滅していないが、売掛金の状態では同時履行義務が消滅しているということになります。すなわち、同時履行義務がある場合において契約資産とは同時履行義務が付着している不完全な代金債権であり、債務者に請求しても拒絶されてしまう一方、売掛金とは同時履行義務が消滅した完全な代金債権であり、債務者に請求すれば拒絶できない

 このように、契約資産と売掛金の分岐点を同時履行義務の有無(つまり自分の債務を完全に履行したか否か)によって決めることができるのではないでしょうか!??

 よって、同時履行義務がある場合において収益認識基準がいう条件とは同時履行義務のことを指すんですよね?

 したがって、同基準の「契約資産」とは、民法の視点から引き直すと「同時履行義務が付着している代金債権」ということになり、「顧客との契約から生じた債権」は「同時履行義務が消滅した代金債権」ということになります。

4.結論(時間がない方はこれだけ見とけ)

 契約資産とは、先履行義務を負っている場合においては「先履行義務が付着している代金債権をいい、同時履行義務を負っている場合においては同時履行義務が付着している代金債権」をいいます。(終)

 

ダークライ

 商品XYをセット販売している例題(3)については、抱き合わせ販売規制独禁法19条、2条9項6号、一般指定10項)の観点からも分析できます。ダークライの正体です。会計処理の際に契約資産(or契約負債)が問題となるときはダークライを思い浮かべるのも一興でしょう。

 

参考文献です(最新版を掲載)。

 

 

*1:ちなみに例題の仕訳は三分法によっています。三分法とは、商品売買の仕訳を仕入・売上・繰越商品の3つの勘定科目で記入する方法をいいます。勘定科目「商品」は使いませんので、仕入時や売上時に「商品」の増減は考えず、期首と期末の時点でのみ商品の増減を把握します。当期首には前期末の売れ残った「繰越商品」を「仕入」に繰り入れ(期首商品)、当期末には期中で売れ残った(=「売上」に繰り入れられなかった)「仕入」を(翌期首に持ち越すため)「繰越商品」に繰り入れます(期末商品)。

当期首:仕入   繰越商品

当期末:繰越商品 仕入

*2:商品Xが引き渡されてもB社はその対価12,000円を商品Yの引渡し時に支払う。

『ぼっち・ざ・ろっく!』ぼっちちゃんから借りた金銭を踏み倒そうとした二人のクズ?刑法・民法の観点から大分析!!!

<事例1>

 第4話、おしゃれカフェにて、山田リョウ(16歳)(以下「青クズ」という)は後藤ひとり(15歳)(以下「ぼっち女史」という)を呼び出して、カレー代金分の金銭を持っていないのにカレーを注文して飲食した。お会計時には、青クズは迷いなく店外に出ようとしたところ、ぼっち女史からカレー代金の支払いを求められたが、「ごめん、今お金ないからおごって」「来月返します」などと言ってぼっち女史にカレー代金を支払ってもらった。

<事例2>

 第6話、横浜市金沢八景駅近くで、廣井きく(推定27~28歳)(以下「紫クズ」という)は、ぼっち女史を誘って一緒にゲリラ路上ライブをした。その後、紫クズはぼっち女史からライブチケットを1500円で購入したが、「チケット買ったらお金なくなっちゃった。電車賃、貸して。」と言って1000円を返してもらった。なお、チケットはぼっちに返していない。キセル乗車はしていない。

<事例3>

 第9話、江の島にて、青クズは”江の島エスカー・シーキャンドルセット”の料金(400円)を自分のギターで決済しようとしたが断られたため、ぼっち女史に支払ってもらった。また、サムエル・コッキング苑入口前で、生乳アップルマンゴミックスのソフトクリームの料金(400円)もぼっち女史に支払ってもらった。

 

1.事例1について

(1)詐欺罪の成否

 最初に刑法の観点から分析しましょう。

 大前提として、青クズは16歳の設定なので、14歳未満の刑事未成年ではありません(刑法41条)が、犯罪行為をすれば犯罪少年少年法3条1号)になり、少年審判の手続きに進みます。

 カレーの注文をする行為には、カフェ店に対する詐欺罪(刑法246条)の成否が問題となりますね。

 お金を持っていないのに飲食物を注文することは無銭飲食(食い逃げ)です。もし青クズに詐欺罪の故意がある(=支払意思がない)と仮定すると、カレー注文行為はカフェのカレー提供行為に向けられた、その判断の基礎となる重要事項(支払意思があること)を偽ることになるため「欺く」行為(欺罔行為)に当たり、カフェが提供した(「交付」行為)カレー(「財物」)を青クズが食べている(財物の移転+不法領得の意思)ので、詐欺罪の既遂が成立することになります。

 では実際、青クズに詐欺罪の故意はあるのでしょうか、具体的には支払意思の有無が問題になります。

 事例1の無銭飲食について故意の有無(≒支払意思の有無)という観点から場合分けすると、カレー注文の時点でカレー代金の支払意思がない場合にはカレーという「財物」につき1項詐欺罪が成立しうる一方、カレー注文の時点でカレー代金の支払意思はあったが、その後にお金を持っていないことに気づいて会計時に店員を欺いて店外に逃げた場合には、カレー代金の支払債務を免脱したという「財産上不法の利益を得」ているため2項詐欺罪が成立しえます。また、カレー注文の時点でカレー代金の支払意思はあったが、その後にお金を持っていないことに気づいて、店員に気づかれないようトイレの窓などから逃げた場合には利益窃盗として不可罰(235条)になります。

 青クズの場合、もともと金欠であることを認識し、草しか食ってないとも発言していることから、カレーの注文時点で代金の支払意思がないとも思えます。ところが本事例は大変おもしろいことになっています。すなわち、カレーの注文前にぼっち女史を呼び出しており、彼女にカレー代金を立て替えてもらおうと企んでいたと仮定すると、青クズにカレー代金の支払意思がないとは言えないと考えられるのです!(=ぼっち女史の計算*1支払意思があると言えると考えられるのです!)

 これはたとえば、マッチングアプリにおいて、ご飯目的の女性が最初から男性に食事代を全額おごってもらおうと企んで飲食物を注文する場合には、女性自身に食事代の支払意思がないのに詐欺罪が成立しないのとほぼ同じことなのです!なぜなら、店側としては食事代さえ支払ってもらえれば誰が支払っても関係ないからです。ぼっち事例とマチアプ事例の間には、注文前に二人一緒に入店するか別々に入店するかの違いしかありません。

 もっとも、カレー注文後に初めてぼっち女史を呼び出そうと思い立った場合には、カレー注文時点で支払意思がないので詐欺罪が成立しえますが、事例1はこの場合にも当たらないようです。

 こうしてみると、青クズは狡猾に「法の抜け穴」を見出して詐欺罪の成立を回避していると思いませんか!??

 とういうわけで、青クズのカレー注文行為につき故意がないため、詐欺罪が成立しないと思われます。

(2)建造物侵入罪の成否

 上述のとおり詐欺罪が成立しないと考えると、「正当な理由がない」(=不当な理由がある)や「侵入」に当たらないので、建造物侵入罪(130条)も成立しないことになります。

(3)金銭消費貸借契約OR立替払い契約OR併存的債務引受けOR第三者弁済OR事務管理

 次に民法の観点から分析してみましょう。

 青クズはカレーを注文しているので、青クズとカフェの間にカレーという特定物の売買契約(555条)が成立しています。この契約の法的効果として、カフェは青クズに対してカレー提供債務を負う一方、青クズはカフェに対してカレー代金支払債務を負うことになります。両債務には同時履行義務があるのが原則です(533条)が、本件のカフェは代金を後払いにしているので、青クズのカレー代金支払い債務につき同時履行義務がありません。カフェのカレー提供義務が先履行になっています。青クズはお金を払う前にカレーを食べることができます。

 そして、青クズによるカレー代金支払債務の履行に関して、ぼっち女史がカレー代金を代わりに支払うことになっていますが、この場合の法的構成としては5つほど考えられます。

 一つ目は、ぼっち女史が青クズにカレー代金分の金銭を貸すとの金銭消費貸借契約(587条)を締結するとともに、ぼっち女史が青クズの任意代理人(99条)又は使者としてカレー代金支払債務を履行して、後から青クズに金銭債務の履行を請求するという構成です。

 二つ目は、ぼっち女史が青クズに代わってカレー代金を立て替えるという立替払い契約(準委任契約655条)を結んで、後からカレー代金分の金銭を費用として青クズに償還請求する(650条1項)という構成です。

 三つ目は、ぼっち女史が青クズのカレー代金支払債務を併存的に引き受けるとの併存的債務引受け契約*2(472条1項2項)を結んで、カレー代金債務を履行した後にぼっち女史が青クズに全額求償する(464条)という構成です。

 四つ目は、ぼっち女史が青クズの委託を受けて(643条)カレー代金債務を任意に第三者弁済(499条)して、新たに債権者となったぼっち女史が青クズにカレー代金の支払いを請求する(501条,650条1項)という構成です。

 五つ目は、四つ目のような弁済委任契約の成立を認めることができない場合に、任意の第三者弁済を事務管理(697条)として扱い、有益費の償還を請求する(702条)という構成です。

 理論上はどれでも構成できますが、私としては法的構成が簡素で請求原因も少なく主張しやすそうな四つ目を推しておきましょう。

※なお、債務引受と似た概念として「履行引受」(デットアサンプション)がありますが、この場合ぼっち女史は青クズに対するカレー代金請求権を有しないことになるため、事例1では該当しません。どちらかというと、「おごってもらう」場合に該当しえます。

(4)未成年者取消しの可否、原状回復義務の有無

 ぼっち女史と青クズはともに高校生であり、18歳未満なので、未成年者という制限行為能力者ですね(4条)。そして、両者とも法定代理人たる親の同意がないので、未成年者取消権を有するのが原則です(5条1項2項)が、カレー代金が親からのおこずかいを原資とする場合には例外的に未成年者取消権を有しません(同条3項後段)。

 事例1では、ぼっち女史が親からのおこずかいでカレー代金を代位弁済していると考えると、3項後段の適用によりぼっち女史は未成年者取消権を有しないことになります。その一方、青クズはそもそもお金を持っていない、つまり処分できる自由財産を有していないため、3項後段の適用がなく未成年者取消権を有することになります。

 この不公平な関係はいかに・・・。

 それでは、青クズがカレー売買契約につき未成年者取消権を行使するとどうなるでしょうか*3

 そうです、カレー売買契約が遡及的に無効になります(121条)。そして、121条の2第3項後段がなければ、当事者が原状回復義務を負いますね。具体的には、ぼっち女史はカレー代金分だけお金が減少しただけなので特に義務を負わない一方で、青クズはカレー代金分だけ債務免脱という利得を受けているのでカレー代金分だけ価額償還義務を負いますね。ん???

・・・121条の2第3項後段

なんだこれ。

 実は、未成年者が取消権を行使した場合、未成年者が負う原状回復義務は現存利益に限られるのです(121条の2第3項後段)。すなわち、事例1において売買契約の目的物たるカレーは既に青クズの胃袋に入っており現存しないため、青クズは現物償還に代わる価額償還義務を免れるというわけです。

 つまり、青クズは未成年者取消しをすれば、合法的にぼっち女史からの借金を踏み倒すことができるのです。

 つくづく法的に狡猾な女です。

 この時点で事例1の青クズにとって刑法や民法は役に立たないということになりますので、後は義理と人情の世界にお任せします。

 ちなみに、紫クズは18歳以上の成人であり、、未成年者取消権を有することはないので、借金を踏み倒すことはできません。事例1の分析END。

(備考)ワンチャン、信義則(1条2項)に基づいて青クズの未成年者取消しを制限できるかも???

  

2.事例2について

(1)道路交通法違反、表現の自由

 路上ライブを行う場合、道路の一時的な使用を伴うため、事前に所轄警察署長の道路使用許可を受けなければなりません(道路交通法77条)。ちなみに、路上で飲食店を運営する場合は、道路の継続的な占有を伴うため、事前に道路管理者の道路占用許可を受けなければなりません(道路法32条)。根拠法令の違いに注意!!!

 事例2について、紫クズはおそらく咄嗟の思いつきで路上ライブを行うことを決めたようなので、道路使用許可を受けていないのではないでしょうか。無許可の場合、3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されます(道交法119条)(定期)。しかもぼっち女史と共謀(共謀共同正犯、刑法60条)してますよね。。。

 とはいえ、アニメ本編では処罰されなかったようなので、「これぐらいなら違法性が極めて軽微で可罰的な程度に達していないので違法性が阻却される」、といった優しい解釈をしたのではないでしょうか。機材まで用意しているので無理ですね、はい。

 もし逮捕されても不起訴処分(起訴便宜主義、刑訴法248条)や微罪処分(246条、捜査規範198条)があり得ますが、仮に起訴された場合は、表現の自由憲法21条)を争うことが考えられます。

 しかし、場所が公道というパブリック・フォーラムであっても、制約の態様が間接的制約にとどまるし、路上ライブの性質も政治的表現ではなく芸術的表現(あとスピーチプラスでもある)であり自己統治の価値がなく自己実現の価値しかないため、厳格審査基準からLRA基準に引き下げされて、結局処罰が合憲ということになってしまいそうです。

(2)チケット売買契約、解除、金銭消費貸借契約

 紫クズはぼっち氏からライブチケットを1500円で購入したので、両者の間にチケット売買契約民法555条)が有効に成立しています。

 ところが、これによって紫クズの持ち金が尽きてしまい、電車賃のため1000円をぼっち氏から貸してもらっています=借りています。お金を借りていると解釈できるので、ここは1000円分の金銭消費貸借契約が成立していると考えてよいでしょう。

 それでは、このときチケット売買契約はどうなってしまったのでしょうか。

 個人的な見解として、解除された(540条)と解釈するのは難しいように思えます。なぜなら、解除は債務不履行が要件となっていますが(541条542条)、事例2ではチケットの所有権がぼっち女史から紫クズに移転しているとともに、代金1500円の所有権も紫クズからぼっち女史に移転していることから、ぼっち女史のチケット交付債務と紫クズの代金債務がともに完全に履行済みであり既に消滅しているためです。

 このような完全履行を不完全履行に巻き戻して債務不履行に戻せるのでしょうか。それとも不完全履行から完全履行への転化は不可逆的なものなのでしょうか。私は後者の見解を支持します。なぜなら、契約の拘束力が完全履行により一旦は解消された以上、巻き戻して債務不履行に戻すことは契約の蒸し返しであり、相手方の取引安全を害すると思うからです(私見)。

 実際、紫クズがチケットをぼっち女史に返していないのは、そもそも解除されておらず原状回復義務を負わない(545条1項本文)からであると推測できます。

 であるからして、チケット売買契約は有効のまま、新たに1000円の金銭消費貸借契約が成立したと考えるのが素直な解釈ではないでしょうか。

(3)金銭消費貸借契約の取消しの可否

 紫クズは18以上の成人であり、未成年者取消権を有することがないため、青クズのような合法借金踏み倒しムーヴをすることは民法上許されません。ただし、紫クズが債務免除(519条)を求めてぼっち女史に債権放棄(棒引き)させるという更なるクズムーヴに出ないとも限りません(ただし、このときぼっち女史からの脅迫取消し(96条1項)が可能?)。

3.事例3について(代物弁済、ギター決済)

 民法によると、日本国内での売買契約に係る金銭債務については原則として通貨(日本円のみならず外国通貨でもよい)で決済することになっています(民法402条)ので、売主が通貨以外による代物弁済に応じる義務はありません。さらに、日本銀行法46条2項の強制通用力によって日本円による決済を拒めないようになっています。ある種の応召義務でしょう。

 青クズが”江の島エスカー・シーキャンドルセット”の料金(400円)を自分のギターで決済しようとするのは、(契約締結済であれば*4)いわゆる代物弁済(482条)の問題ですが、代物弁済を認める旨が契約に盛り込まれてるとは解釈できないため、代物弁済は認められません

 また、ギターは日本円や米ドル、英ポンドのような「通貨」でもなければ強制通用力もないため、江の島エスカー側がギター決済に応じる義務もございません

 青クズは江の島エスカー料金400円と生乳アップルマンゴミックスのソフトクリームの料金400円、合わせて800円をボッチ女史に支払ってもらっている(第三者弁済)。これに関しては事例1の分析と同じになります。

 

 なお、この800円については、「来月返す」と月単位の返済期限を定めているので、契約締結日の翌日(=起算日)(初日不算入原則、140条本文)から、翌月においてその起算日に応答する日の前日(143条2項本文)の24:00までに返済する必要があります。たとえば、8/10が契約締結日であれば、8/11から、9/11の前日9/10の24:00までに返済する必要があります。もし返済期限を過ぎれば、過ぎた日の翌日(9/11)から消滅時効が進行する(166条1項1号)ので、ぼっち女史は仮執行宣言付支払督促(民事訴訟法382条以下)を青クズの住所に特別送達(同法338条1項、382条但書、103条以下、郵便法49条)してもらった上、これを債務名義(民事執行法22条4号)として、青クズの動産を差し押さえて強制執行(同法29条30条1項、122条以下)した方がよいでしょう。

 民法上借金は無利息が原則(589条1項)ですが、借金に年3%の法定利息をつける(404条1項2項)と仮定すると、たとえば、8/10に800円を借りて9/7に返す場合、日割り計算するなら、800円×3%×28/365≒1円84銭の法定利息をつけることになります(50銭以上を1円に繰り上げるのでしょうか、1円未満を切り捨てるのでしょうか)。

 

以下、参考文献(最新版を掲載)。

 

 

 

 

 

 

*1:ぼっち女史の財布

*2:この契約によってぼっち女史と青クズはともに連帯債務者になります。

*3:確認ですが、未成年者本人たる青クズは未成年者取消権の行使権限を有します(120条1項)。

*4:契約未締結だと江の島エスカー側からの契約締結拒絶の意思表示で終わりますが、万が一、このとき江の島エスカー側がギターを受け取ると非債弁済(705条)という別次元の問題になります。

修正テープと間違えてテープのりを買った場合、買主はテープのりを返品できるのか!?民法の視点から分析してみよう!

1.テープのり売買契約の成立要件+契約内容

 まずは、上記の場合どのような契約が成立した(契約の成立要件+契約内容)と考えられるでしょうか?

もちろん「テープのり」という特定物の売買契約民法555条)ですね*1

 具体的に説明すると、買主がレジに「テープのり」を置いた時点で売買契約の申込みの意思表示がなされた一方、店員がこれをバーコードスキャンして代金を要求した時点で売買契約の承諾の意思表示がなされている(522条)と評価できるため、両者の意思表示が合致しており「テープのり」を目的とする売買契約が成立しています。

 ここで、民法は意思表示について、相手の取引安全を重視して意思主義(主観主義)ではなく表示主義(客観主義)を採用しています(93条)ので、買主と売主の効果意思が不一致でも客観的に意思表示さえ一致していれば契約が成立します。本事例では買主の効果意思が「修正テープ」でも実際は「テープのり」をレジに置いているので、買主の意思表示は客観的に「テープのり」ということになります。

 

2.テープのり売買契約の有効要件(錯誤取消しの可否)

 では、買主はテープのりを返品できるでしょうか?ここで、テープのりの返品とは売買契約の取消し(120条2項、121条)+原状回復義務(121条の1第1条)を意味します。そのため法的には、買主はテープのりの売買契約を取り消し(契約の有効要件)、原状回復義務としてテープのりを売主に返還して、売主から代金の返還を請求できるかが問題となります。

 本事例では、買主が「修正テープ」と間違えて「テープのり」を買ったのでした。言い換えると、「テープのり」を「修正テープ」と誤解勘違いして買ったのです。この場合は意思表示の瑕疵が問題となりますが、誤解・勘違いといえば錯誤(95条)に当たります。

 くどいですが、買主が「テープのり」を買う意思がないのに「テープのり」の意思表示をした場合でないので心裡留保(93条)ではないし、売主が意図的に買主をして「テープのり」を「修正テープ」と勘違いさせた場合や、売主が買主を脅して「テープのり」を購入させた場合でないので詐欺・強迫(96条)でもありません。まして買主と売主が「テープのり」の売買意思がないのに売買契約を締結した場合でもないので通謀虚偽表示(94条)でもありません。

 買主の効果意思が「修正テープ」なのに「テープのり」の意思表示*2をした場合

であるから、錯誤に該当するのです。

 民法上、錯誤には表示錯誤(1号)と基礎事情錯誤(2号)の2種類ありますが、上記場合は目的物の同一性について買主の効果意思と意思表示に齟齬がある場合ですので、類型的には表示錯誤(1号)に当たることになります。司法試験では基礎事情錯誤が契約内容不適合責任と絡めて頻出ですが、本事例は違います。

 

3.錯誤取消しの要件とあてはめ

 買主が錯誤取消しを主張できるか。これは要件事実の観点から具体化すると、買主が錯誤取消権の発生を主張できるか(95条1項)、できる場合は売主が錯誤取消権の発生の障害(買主の重過失)を主張できるか(2項本文前段)、できる場合は買主がその障害の障害(売主の悪意重過失、共通錯誤)を主張できるか(2項各号)、となります。

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 表示錯誤による取消権の発生要件は、錯誤につき①主観的因果性(条件関係)客観的重要性が認められることです。①は「意思表示は、・・・錯誤に基づくもの」という文言に対応し、②は「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」という文言に対応します。

 本事例では、買主が「テープのり」を「修正テープ」と誤解するという錯誤がなければ、テープのりの売買契約の申込みの意思表示をしなかったであろうから、いわゆる「あれなければ、これなし」の関係があり①を満たします。

 また、上記の錯誤につき、目的物がテープのりが修正テープかは、その機能が全く異なる点で、一般人を基準にしても重要です。テープのりの機能は紙と紙をくっつけることである一方、修正テープの機能は文字を消すことであるため、両機能は全く異なります。よって、②も満たします。

 したがって、買主が錯誤取消権の発生を主張できるでしょう。

 

 しかし、取消権が発生したからといって、行使できるとは限りません。取消権の発生を障害されたり、取消権が消滅したり、取消権の行使を阻止されると行使できません。95条2項には錯誤取消権発生の障害要件と、その障害の障害要件が明記されています。

 では、売主は錯誤取消権の発生の障害要件として買主の「重大な過失」(以下、重過失)を主張できるでしょうか。重過失の有無を基礎づける具体的事実(重過失の評価根拠事実・評価障害事実)があるかを検討する必要があります。

 たとえば、防犯カメラの記録から、「テープのり」や「修正テープ」のネームプレートが目立つ場所にあるのに買主がきちんと見ていない等の事実が証明されると、買主の重過失が認定されるかもしれません。他方で、「テープのり」や「修正テープ」のネームプレートが逆に設置されていた等の事実が証明されると、買主の重過失が認定されず、返品できるかもしれません。

 ただ、騙した者が騙された本人よりも悪いと考えられている詐欺(96条)に比べると、錯誤は自己責任の観点から、錯誤に陥った買主がそれで迷惑のかかる売主よりも悪いと考えられるため、買主の重過失が認定される場合が多いかもしれません。確かに「テープのり」と「修正テープ」は外形上よく似ていますが、そんなことは百も承知で「よく確かめなかった買主が普通悪いでしょ」という価値判断が働くのではないでしょうか。

 

 仮に買主の重過失が認定されたとしましょう。そうすると、買主が錯誤取消権発生の障害の障害(売主の悪意重過失、共通錯誤)を主張できるかが問題となります。これについても、売主の悪意重過失、共通錯誤の有無を基礎づける具体的事実があるかを検討する必要があります。

 たとえば、「テープのり」と「修正テープ」を勘違いする事例が多発していることを売主は以前から知っており、注意書きを掲載する、お会計時に確認するなどの再発防止策を講じることが容易なのに講じないという事実が証明されると、売主の悪意重過失が認定され、返品できるかもしれません。売主の共通錯誤については想定しにくいと思われます。

 

4.結論!!!

 長くなりましたが、結論に入りましょう。

個人的な見解になりますが、一般論として『買主の重過失が認められやすいため、民法上錯誤取消しは難しいが、売主側の事情として①「テープのり」や「修正テープ」のネームプレートが逆に設置されていた、②「テープのり」と「修正テープ」を勘違いする事例が多発していることを以前から知っており、注意書きを掲載する、お会計時に確認するなどの再発防止策を講じることが容易なのに講じない等の事情がある場合には、買主は錯誤取消しができ、原状回復の一環としてテープのりを返品して、売主に代金の返還を請求できるかもしれない。民法上錯誤取消しができない場合には、売主にお願いするしかない。テープのりのパッケージが開封済みである等の理由により売主に返品を拒否されれば、買主は諦めるしかない。』ということになるのではないでしょうか。錯誤取消しができないときは、店員さんの善意(「知らない」という法的な意味ではなく、「思いやり」という温かい意味)で返品させてくれるか決まるでしょう!

 

 実際、このような場合に訴訟になる可能性は限りな~くゼロに近いですし、「錯誤取消しが~」と店員さんと押し問答になることもまずないでしょう()

(類題)

・マンガを第1巻だと思って買ったが、実は第2巻を買っていた!?

・シャンプーVSリンス

・蠣フライVS柿フライ

以下、参考文献(最新版を掲載)。

 

 

 

 

 

 

*1:ちなみに私たちが日常生活で行う売買を現実売買ということがあります。

*2:民法上、意思表示は動機(基礎事情)→効果意思→表示意思→意思表示の順で実現します。ここでいう動機とは「ボールペンで誤って書いたものを修正テープで消したい」と思うことであり、効果意思は「だから修正テープが欲しい!」と思うことであり、表示意思は「修正テープを買うことを伝えよう」と思うことであり、意思表示は「修正テープを買う」旨を実際に伝えることであります。本事例では「修正テープが欲しい」という効果意思を持っているのに「テープのりを買う」旨の意思表示をしてしまったから、表示錯誤に当たります。ちなみに、基礎事情錯誤とは「ボールペンで誤って書いたものをテープのりで消したい」のように動機レベルで誤解がある場合をいいます。

『陰の実力者になりたくて!』偽札編 信用創造と信用崩壊について考察してみた! 

アニメ「陰の実力者になりたくて!」第2期の偽札編で取り上げられた信用創造”信用崩壊”について考察します。

1.偽札編ストーリー全体の要約

 アニメ本編では、事業を急拡大するミツゴシ商会*1VS伝統的な大商会連合という勢力図のもと、ジョン=スミスと名乗る謎の男(正体はシャドウ)、並びに雪狐商会のユキメが偽札流通による”信用崩壊”の計画を立てました。
 結末としては、大連合商会が信用崩壊により財政破綻したのに対して、ミツゴシ商会財政破綻を回避して絶対的地位を築きました。

2.信用創造のメカニズム(一般論)

 理論的詳細は省きますが、信用創造(英訳Money Creation)とは、銀行が果たす機能として「預金と貸出の連鎖的反復により預金が乗数倍に増える現象」を言います。この現象ではあくまで預金のみが増えるのであって現金は何ら増減しません。
 信用創造には”預金”という仕組みが不可欠です。預金とは文字通り銀行に金銭を預けることをいいますが、利用者の預金引出し額が銀行の現金保有額より少ない限り、銀行の現金保有額が預金総額より少なくても差し支えないということが重要です。
 銀行は預金口座に振り込まれた現金を種銭にして金銭を貸し出します。具体例として、100万円を預金口座に振り込んでもらい、そのうち90万円を貸し出した場合、預金額は100万円のままなのに実際の現金保有額は10万円しか残っていないため、もしこの状態で20万円の預金引出しを受けると銀行側は不足分の10万円について引出しに応じることができません。10万円程度の不足であれば有価証券(国債や株式など)の売却や他銀行からの貸出で解消できますが、一勢に大量の預金引出しを要求されて不足分を賄えなくなると、最終的には資産が底をつき財政破綻してしまいます。
 ゆえに極論をいえば、銀行側は利用者からの預金引出し需要に応じることができる分だけ現金を保有していれば足りるのです。
 実際にも、私たちは金額の多寡こそあれ預金口座を有していて、そこから直ちに全額引き下ろそうとは普通考えません。なぜなら、そもそもタンス預金には盗難リスクが付きまとう上に、預金口座は引き下ろしたい時にいつでも引き下ろせると信じているからであり、また銀行預金に付きまとう財政破綻リスクの方が1000万円分の預金保険制度がある点で盗難リスクよりも安全であると考えるからです。
 しかし、銀行の経営難などにより「預金口座から金銭を引き出すことができないかもしれない」との疑念が人々に漂うと、そうなる前に我先にと預金口座から金銭を引き出す人が急増します(いわゆる取り付け騒ぎ)。
 アニメ本編で二人は「現在流通している通貨に偽札が混入しているかもしれない」との疑念が通貨への信用力を失墜させ信用崩壊を招くことで銀行の財政破綻を狙ったのでした。

3. アニメ本編で起こった信用崩壊(必読)

a.アニメ本編の貨幣制度
 
アニメ本編では、金貨(単位:ゼニー)との交換を保証した二種類の紙幣(兌換紙幣)、すなわちミツゴシ銀行が発行した紙幣(以下、ミツゴシ銀行券)と大連合商会が発行した紙幣(以下、大連合商会券)が流通していました。
 こうした金貨本位制には、現代日本の不換紙幣たる日本銀行券と異なり、重くて嵩張る金貨の代わりにミツゴシ銀行券と大連合商会券が流通するという性格があります。そのため、この二種類の紙幣は金貨の代替物に過ぎず、いつでも金貨と交換できなければなりません。「いつでも金貨と交換できる」という民衆の”信用”こそがこの金貨本位制を築いているのです
 また、本来であれば紙幣流通量は銀行の金貨残高と等しくする(レバレッジ1倍)のが望ましいです。もし紙幣流通量が金貨残高を超過すると、紙幣全部を金貨に交換する前に金貨が底をつきてしまい、金貨本位制が崩壊の危機に瀕するからです。現代日本でも実際は信用創造によってこうした超過状態(いわゆるハイレバ状態)が常態化してますが、度が過ぎるとやはり危険です。

 以下の文章は信用創造の本質やその危険性金貨本位制下での兌換紙幣の本質を鮮やかに描写しています。

「この一枚の金貨が何倍にも膨れ上がる。そこにあるのは幻のような儚い信用……」

 低くよく通る声で、彼は語る。

 彼が言っているのは最近流通している紙幣のことだとユキメは察した。

「民衆が紙幣だと思っている紙切れは、正確には紙幣ではない。正体は預金の預かり証、これは現金との引換券にすぎない。ミツゴシ銀行は預金の預かり証に決済機能を付与し流通させたのだ。最初はミツゴシ商会グループでしか使えなかったが、今では信用が広まり王都では大体の店で使える。民衆はこの紙切れに現金と同じだけの価値があると信じている……」

[・・・]

大商会連合の紙幣は想像を超える勢いで広まっている。しかし、金を借りる人間はいるものの、金を預ける人間は少なかった。彼らは既にミツゴシ銀行に金を預けていて、わざわざ大商会連合に移動する人間はほとんどいなかったのだ。

 それが意味することは……。

「実際の資金の何十倍もの量の紙幣が発行され、予想を上回る量で流通していっていんす。紙幣は現金との引換券でありんす。つまり紙幣の十分の一でも現金と引き換えされたら大商会連合は……」

 危険だ。信用創造にはこの手のリスクが伴うが、これ以上リスクが増えるのは危うい。

 しかし大商会連合はミツゴシ銀行を潰すため紙幣を発行せざるを得ない。この先、資金と紙幣の差は更に開いていく。

 危険はさらに拡大していくのだ。

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b.偽札流通による信用崩壊
 ジョン=スミスもといシャドウは、ミツゴシ銀行のお札には透かしがあるのに対して大連合商会のお札には透かしがなくデザインも粗いことに着目して、ユキメとともに大連合商会券の偽札を発行することを企みました。二人の計画は、大連合商会券の偽札を流通させることによって、本物の大連合商会券に対する信用を崩壊させるとともに、この信用崩壊の波をミツゴシ銀行券にも飛び火させることでした。偽札の流通は実際の貨幣流通量を過大に見積もることにつながり、偽札で金貨に換えることができると、本物の大連合商会券を金貨に換える前に銀行の金貨残高が底をつく危険性が高まります。さらに偽札流通の嫌疑が民衆に広がれば「いつでも金貨と交換できる」という”信用”が「金貨と交換できなくなるかもしれない」という”疑念”に豹変し、金貨への換金に拍車をかけると考えられます。銀行の金貨残高が底をつけば、新たに金貨を調達できない限り財政破綻してしまいます。こうしたプロセスがアニメ本編での信用崩壊と考えられます。要するに、二人の計画は①通貨流通による信用創造を前提に②偽札流通による疑念創造(=信用崩壊)銀行の財政破綻というプロセスを経ます。
 計画実行段階において二人は本物よりも高品質な偽札を製造・流通させることに成功し、偽札流通の嫌疑が現れる前に先んじて偽札を金貨に換金できました。
 これによってミツゴシ銀行も大連合商会も、金貨残高が底をつき民衆の換金需要に応じることができず財政破綻するかと思われましたが、結末は大連合商会だけが破綻し、ミツゴシ銀行はシャドウの手記を頼りに金貨の保管場所を突き止め、その金貨をもって民衆の換金需要に応じることができました。つまり、ミツゴシ銀行は大量の金貨を用意できたため「金貨と交換できなくなるかもしれない」という”疑念”を民衆から払拭させ、信用崩壊を回避することに成功したのです。

4.現代日本との比較

 アニメ本編では金貨本位制下の兌換紙幣が流通していたのに対して、現代日本では不換紙幣、つまり金貨との交換が保証されずあくまで強制通用力*2でしか根拠づけられない法定通貨が流通しています。
 兌換紙幣の発行数量は金貨の数量に制約されますが、不換紙幣には名目上制約がありません。両行とも通貨発行権を有することになりますが、ミツゴシ銀行は金貨の数量に応じてミツゴシ銀行券の発行数量を調節する必要がある一方、日本銀行は過度なインフレにならなければ名目上無限に日本銀行券を発行することができます(詳細はMMTを参照)。
 ミツゴシ銀行は民間企業なので財政破綻することがあり得ますが、政府の認可法人であって名目上無限の自国通貨発行権を有する*3日本銀行財政破綻することはあり得ません(詳細はMMTを参照)。ミツゴシ銀行が破綻しても金属通貨あるいは鋳造通貨たる金貨の流通に戻るだけと思いますが、万が一に日本銀行が破綻すると日本の貨幣経済が終わります。
 

5.結び

 アニメ「陰の実力者になりたくて!」第2期の偽札編では、緊張と緩和を精妙に均衡させた、いつも通りのシリアスコメディが展開されており、大変面白く視聴しています。残響編にも期待してます。
 偽札編は信用創造と信用崩壊の本質に迫るストーリー構成になっており、現代貨幣理論との比較に重大な示唆をもたらしてくれました。

 

(参考文献)

金融の基礎的な知識を身に着けるには『金融読本』を読むのが一番よいと思います。理論的正確性を保ちつつ、図式を多用して本質的な理解へと読者を誘ってくれます。

MMT理論は以下の書籍が詳しいです。

 

*1:ミツゴシ商会というネーミングは現実の三越伊勢丹をパロディにしていると思われます。

*2:強制通用力とは、政府が法令(日本では日本銀行法46条2項や各種税法)によって特定の通貨(日本では日本円)を決済手段として流通(=通用)させることを強制する力をいいます。

*3:発行した通貨の運用益を通貨発行益(シニョレッジ)といいます。